ソーシャル企業認証とは、企業理念や企業活動、その成果が社会的な影響を与える企業に対して与えられる認証のことです。社会的な活動をしている企業を評価しようという動きはこれから増えていくと考えられており、大阪でもそのような取り組みが始まろうとしています。
9月30日(木)18:30~20:30龍谷大学政策学部教授の深尾昌峰さんのオンラインセミナー「社会と地域の利き力」が開催され、2021年4月に京都で始まった「ソーシャル企業認証制度」の取り組みについてお話を伺いました。このセミナーの記録を掲載します。
このセミナーの記録を、1)ソーシャル企業認証制度が必要とされる背景、2)ソーシャル企業認証制度の概要、3)セミナー会場からの質疑と 3 回に分けて掲載します。
登壇者プロフィール
深尾昌峰(ふかお まさたか)
龍谷大学 学長補佐、政策学部教授
株式会社 PLUS SOCIAL(https://www.plus-social.org/ps)代表取締役
経済財政諮問会議 政策コメンテーター
総務省 地域づくり懇談会委員
東近江市参与
1.ソーシャル企業認証制度が必要とされる背景
(I)問題意識は「地域が地域であり続ける」こと
現代は社会の構造が大きく変わり、制度と制度のはざまで起こる問題や、激甚化する格差が顕在化してきました。そんな時代において、地域でこれからも安心して生きていくために、何ができるか考えないといけません。私は中山間地域での活動を経て、「地域が地域であり続けるために」どうすればいいかを自分の課題とするようになりました。
現代は、生き方のモデルのない時代であり、答えがない時代です。今までのようにお金やいい会社に就職することを基準にするのではなく、何が幸せか問い直す時代になっています。そのためには、今あるまちやしくみ、これまでの立ち位置を構造からひっくり返さないといけません。
最近話題となっているSDGs(貧困、ジェンダー、気候変動など2030年までにすべての国が取り組むべき17の目標)は、そもそもは社会の構造を問い直すものです。そして、社会の構造をひっくり返すときには痛みが伴います。現在、東日本大震災やコロナにより、中山間地域などでは暮らしが限界にきており、それはまったなしの状況になっています。そのためには、新しい自治モデルの模索が必要となっているのではないでしょうか。
(II)地域の課題解決をソーシャルセクターだけに任せていいのか?
しかし、なかなか社会が変わるのは難しいと感じています。行政の力を頼るだけでも、NPOやボランティアの力を借りるだけでも限界があります。企業も含めた、総力戦で社会を変えていかなければなりません。
これまでは世間の間に行政やNPOが社会に役に立つことをし、社会の課題を解決し、企業は稼ぐというイメージがありました。しかし、積極的にお祭りや地域の行事にかかわるローカル企業など、社会や地域に役立つ企業もたくさんあります。これまでの、企業=稼ぐ立場という限定的な図式をどう根底からひっくり返すことがより重要になっています。
1)マーケティングの変化
マイケル・ポーターが提唱したCSV(Creating Shared Value:共有価値の創造)と呼ばれる経済価値を創造しながら、社会ニーズに対応することで、社会価値を創造する経営戦略があります。企業の側にも社会問題解決のために企業活動を行う動きが出てきています。代表的なものはスリランカの紅茶農園を長期的に支援し、レイン・フォレストアライアンス認証(農園の環境、土壌・水を含めた天然資源、生態系や生物多様性を守り、労働者の労働条件やその家族・地域社会を含めた教育・福祉などの厳しい基準を満たした農園に与えられる認証)の茶葉使用を拡大するような取り組みなどを通じて、社をあげてCSVを経営戦略の柱にしているキリンホールディングス株式会社などの例があります。
これまでの企業間の競争戦略は価格が中心でしたが、これからはその軸足を移さなければならなりません。そのためには持続可能な社会をつくるための共通価値を盛り込み、気候変動やジェンダーなどの課題解決に取り込むことが必要とされています。このような企業のCSVとソーシャルな世界がいかにつながり、どうやったらもっとみんなで取り組めるのか。企業に足りないものを、どうやって導入できるのかを考えていくことが課題となっています。
2)機関投資家の意識変化
企業の置かれている環境の変化に加えて、機関投資家(法人の大口投資家のこと。大口の資産で長期の投資を行うことが特徴で、市場に与える影響が大きい)の側にも投資で社会を変えられるという意識変化が起こっています。ESG投資(Enviroment:環境、Social:社会、Corporate Governance:企業統治の三つを考慮した投資のこと)、投資によって社会的変化や環境的変化を目指すインパクト投資など、社会課題に責任をもち、社会課題解決を目指す企業に優先的に投資をするようなものが登場してきています。
例えば、アパルトヘイトの撤廃には投資家が南アフリカの企業からお金を引き上げたことが、実質的に経済制裁としての効果をもったことによる影響があったといいます。このように、人種差別・環境破壊に関与する企業へ機関投資家が投資しないことによって影響力を行使することで、お金の力を使って社会を変えていける可能性があるのです。このような環境保護や人権、平等、正義といった問題に変化を促すことを目指す投資は、インパクト投資と呼ばれ、欧米で広がりつつあります。
3)インパクト投資専門の金融会社・PLUS SOCIAL設立
このようにグローバルな規模で、投資によって環境や人権といった社会課題に対する影響力を行使できますが、そこからさらに地域のスケールに合わせて同じようなインパクトを起こすにはどうすればいいのだろうかという問題意識が芽生えました。そこで、地域の事業者と一緒にインパクト投資に取り組むことで、地域を変えることを目指して、インパクト投資専門の金融会社・PLUS SOCIAL(https://www.plus-social.org/ps)をつくりました。これによって社会に必要なものを作っていくことができるのではないかと思っています。現在、PLUS SOCIALがかかわっている進行中の事業としては、熊本で市民も資金を出し事業計画に参加するサッカー場を作る計画があります。